決算賞与の会計、税務の実務
今期は儲かったから決算賞与を支給しよう。
ただ、資金繰りは厳しいから、支給は先延ばしにしたいという方も多いと思います。
今回は、決算賞与の実務について、ご説明します。
当記事は、経理担当者向けの記事です。
経理の仕事でお悩みの方は、こちらの記事もご覧ください。
目次
決算賞与とは
決算賞与とは、一般的には夏(7月)や冬(12月)の賞与(ボーナス)とは異なり、会社の業績が好調なため、
その貢献を社員に還元するために、決算日前後で支給する賞与(ボーナス)のことを言います。
利益が出ると、税金が掛かりますので、税金で国に持って行かれるくらいなら、
社員に還元しようという事で、節税の意味も込めて大盤振る舞いをする会社もあります。
決算賞与の注意点
上記のように、節税手法の一つとして、決算賞与が利用される場合もございます。
当然、節税手法という事は、税務署も目を付けます。
決算賞与の損金算入要件については、いくつか注意が必要ですので、下記にてご説明します。
決算賞与はなぜ節税策として利用されるのか?
原則として、会社の費用(税金を計算するときは「損金」と言います。)は、支払った時に費用として処理されます。(損金算入)
ただし、この決算賞与は一定の要件を満たすと、まだ支払っていないにも関わらず、費用処理(損金算入)できます。
そのため、
税金は安くなるし、かつ賞与の支払も先延ばしできるのです。
なお、賞与の損金算入の実務については、下記記事もご覧ください。
決算賞与の損金算入の要件
決算賞与の損金算入要件については、下記の通り国税庁HPでは規定されています。
法人が使用人に対して支給する賞与の額は、次に掲げる賞与の区分に応じ、それぞれ次の事業年度の損金の額に算入します。なお、使用人に対して支給する賞与の額には、使用人兼務役員に対して支給する賞与のうち使用人としての職務に対応する部分の金額が含まれます。
(1) 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額が通知されているもので、かつ、その支給予定日又はその通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理したものに限ります。) その支給予定日又はその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度
(2) 次に掲げる要件の全てを満たす賞与 使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度
イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。(注1) 法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、ここでいう「通知」には該当しません。
(注2) 法人が、その使用人に対する賞与の支給について、いわゆるパートタイマー又は臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除きます。)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに支給額の通知を行ったかどうかを判定することができます。ロ イの通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。
ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
(3) 上記(1)及び(2)に掲げる賞与以外の賞与 その支払をした日の属する事業年度
上記のとおり、規定されています。
図で表わすと下記の通りです。
支給日までに退職者が出た場合
特に注意が必要なケースをご紹介します。
この場合、「通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。」
こちらの要件を満たしませんので、損金算入できません。つまり、節税対策にはなりません。具体的には下記の図のようになります。
ここで、注意して頂きたいのが、不支給となった人(下記の図ではCさん)分のみが損金不算入となるのではなく、
全ての方の決算賞与が損金不算入になる点です。
賞与の損金不算入の手順については、下記記事をご覧ください。

ですから、退職者の方で、決算賞与の支給の通知を受けていたが、支給時には退職していたので、
ボーナスを貰えなかったという方は、「税務署にチクって、未払賞与否認させるぞ」と脅せば、
払ってくれるかもしれませんw

ちなみに、上記の通り、退職者が出ても、実際に支給されていれば、損金算入可能です。
通知額と支給額が違う場合
通知した金額と支給額がズレている場合も損金算入できませんので、ご注意ください。

就業規則等に「支給日に在職する者のみ賞与を支給する」旨の条項を設けている場合
こちらが厄介で、かつ意外と多くの会社でこの規定があります。
会社の就業規則等において「支給日に在職する者のみ賞与を支給する」旨の条項を設けている場合がありますが、
この場合、結果的に退職者がいなかったため通知した金額を全額支給したケースについても、
その通知した支給額について支給日までに退職した場合に賞与を支給しないとする社内規定を設けていたときは、支給額の通知の要件を満たさず、未払賞与について損金算入できないことが定められています(法基通9-2-43)。
(支給額の通知)
法人税法基本通達9-2-43
法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、令第72条の3第2号イの支給額の通知には該当しないことに留意する。
これは、使用人賞与は原則として実際にその支払が行われた日の属する事業年度に損金算入を認めることとし、未払賞与については、その内容から判断して実際に支払われたものと同視し得る、つまり債務が確定している状態にあるものに限り、例外的に損金算入を認めることとしたものと解されます。
顧問税理士でも、給与規定等までは目を通していない場合があります。
支給日在籍基準の記載があれば、その時点で1発アウトですので、ご注意ください。
私も、この点見落としていて、税務調査で否認された痛い過去があります。
ただし、否認されたとしても、実際に支払った期で費用処理できます。
一生費用とすることができないわけではありませんので、ご安心ください。
具体的に「支給額の通知」はどのようにするのか?
「その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。」
と規定されていますが、具体的にはどのように通知すればよいのでしょうか?
私が以前勤めていた会社では、メールで支給額の通知が来ました。
文書で残すのが、大前提となります。
まとめ
決算賞与は、利益が出た年の節税対策、並びに従業員への還元として非常に有効です。
ただし、運用にあたっては、ご自身の会社の就業規則等の記載内容にはくれぐれもご注意ください。
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