初心者必見!!賞与引当金の会計・税務の実務を公認会計士が解説

賞与引当金の会計・税務の全て

「賞与引当金」って、なんのためにあるの?
払った時にフツーに「賞与」で処理すればいいじゃん。
そう思う方も多いと思います。
今回は、賞与引当金がなぜ必要で、その計算例、会計処理、申告書の記載方法までをご紹介します。

当記事は、経理担当者向けの記事です。
経理の仕事でお悩みの方は、こちらの記事もご覧ください。

賞与引当金の定義

賞与引当金とは、就業規則や給与規程等に基づき、従業員等に対して支給される賞与に対して設定される引当金のことを言います。
また、引当金とは、将来において費用又は損失が発生することが見込まれる場合に、当期に帰属する金額を当期の費用又は損失として処理し、それに対応する残高を貸借対照表の負債の部(又は資産の部のマイナス)に計上するものです。

なぜ計上する必要があるのか?

具体例を紹介しながら、賞与引当金を計上する必要性をご説明します。

前提
  • 決算日 3/31
  • 賞与支給月 7月、12月
  • 賞与の評価期間
    7月 前年10月~3月
    12月 4月~9月

上記のような会社の場合、翌事業年度の7月に支給する賞与は、
前事業年度の10月~3月の間の役務の提供に対する対価の支払となります。
そのため、決算日時点において当期(10月~3月)に提供された役務に対応する賞与が存在することとなりますが、
これについて何の処理もしないと当期に発生したはずの費用が認識されなくなってしまいます。
このため、決算日時点で発生している賞与の未払分については、対応する金額を賞与引当金として計上する必要があります。

賞与引当金の計算方法

賞与引当金は、翌期に支給する賞与のうち、当期に発生した労働の対価部分というのは、上記で説明した通りです。
では、具体的にどのような計算するのでしょうか?
一般的な計算方法を示しながら、いくら賞与引当金を計上するのか検討します。
一般的な会社では、下記の図の通り、職階ごとに基本給(月額)に倍率を掛けて、計算するのが一般的です。
既に、事業計画等で、賞与の支給倍率が決定している場合は、その指数等を使って計上します。


なお、賞与引当金の計算の際は、手取り額で見積もっている場合は、社会保険、所得税の金額を考慮する必要があります。
賞与に掛かる社会保険・税金については、下記をご覧ください。
なお、賞与の支給時には、住民税は天引きされませんので、ご注意ください。

賞与にかかる社会保険・税金

賞与に対する厚生年金保険料
http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20150515-01.html
賞与に対する健康保険料
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150
No.2523 賞与に対する源泉徴収
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2523.htm

賞与支給時の賞与引当金の会計処理

賞与引当金を計上し、実際の支給日に賞与を支給した時の会計処理をご説明します。
まずは、引当金と同額が支給された場合です。

賞与支給時の賞与引当金の会計処理(賞与引当金の積み立て不足があった場合)

賞与引当金はあくまで見積の金額ですので、実際の支給時には、業績の変化や従業員の退社等で支給額は当然変わってきます。
変更があった場合の賞与引当金の会計処理をご紹介します。
下記の通り、積立てた賞与引当金(2,400,000円)を上回る支給額(2,800,000円)の場合は、その差額は、
従業員賞与として、当期の費用として処理します。
科目は必ずしもこの通りである必要はありません。

賞与支給時の賞与引当金の会計処理(賞与引当金の戻入がある場合)

賞与引当金はあくまで見積の金額ですので、実際の支給時には、業績の変化や従業員の退社等で支給額は当然変わってきます。
変更があった場合の賞与引当金の会計処理をご紹介します。
下記の通り、積立てた賞与引当金(2,400,000円)を下回る支給額(1,700,000円)の場合は、その差額は、
賞与引当金戻入益として、当期の利益として処理します。
科目は必ずしもこの通りである必要はありません。

法人税申告書の記載方法

上記のように、賞与の支払見積額を「賞与引当金繰入額」として、費用処理すると述べましたが、
厄介なことに、この賞与引当金繰入額ですが、税務上は費用処理できないのです。

なお、決算賞与の実務については、下記記事にまとめましたので、ご覧ください。

賞与引当金繰入額が損金不算入となる理由

賞与引当金は、なぜ損金不算入となるのでしょうか?
法人税法の関連条文を見ながら解説します。

第二十二条 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

賞与引当金繰入額は、上記の条文の赤字の部分の「債務の確定していない費用」に該当します。

さらに、法人税法基本通達では、下記の通り、「債務が確定している」の定義を規定しています。

法人税法基本通達
2-2-12 法第22条第3項第2号《損金の額に算入される販売費等》の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。(昭55年直法2-8「七」、平23年課法2-17「五」により改正)

(1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。

(2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。

(3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。

賞与引当金は、あくまで見積であり、来期になって、業績悪化に伴って、
賞与の支給がなくなってということは、あり得るわけです。
そのため、賞与引当金は、期末時点では債務が成立しているとは言えず、
債務の確定していない費用として、損金算入が認められていません。

賞与引当金に関する法人税申告書の記載例(別表四 (当期))

賞与引当金繰入額は、下記の通り、別表四で当期に計上した金額を加算します。

賞与引当金に関する法人税申告書の記載例(別表五 (当期))

損金不算入とした賞与引当金は、別表五の「増」欄に記載します。

賞与引当金に関する法人税申告書の記載例(別表四 (翌期))

翌期になり、引き当てていた賞与引当金を取り崩した場合は、別表四で減算します。

賞与引当金に関する法人税申告書の記載例(別表五 (翌期))

前期に否認した賞与引当金を「減」欄に記載します。

まとめ

賞与引当金は、経理初心者の方にとって、なぜ計上するのか?
分かりにくいと思います。
賞与引当金の趣旨を理解し、そのうえで、計算・経理処理を心がけてください。

にほんブログ村 士業ブログ 公認会計士へ
にほんブログ村

ご支援お願いします!!

2件のコメント

いつも拝見させていただいております。
税務に携わる者としてとても利益になるような内容でとても分かりやすく
大変勉強になります。これからもいろんなトピックを楽しみにしております。

コメントありがとうございます。
お客様から問い合わせがあったことについて、
自分の備忘録と勉強のために、記事を書いてますが、
喜んでいただけてとてもうれしく思います。
これからも痒いところに手が届く記事を書いていこうと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です