生命保険で節税はできるが、お得ではない
「社長の退職金積み立てに生命保険を活用しましょう、節税にもなりますし!!」
と謳う保険屋はとても多いです。
生命保険の支払、解約、退職金の会計処理を理解すれば、生命保険がお得ではない理由がよくわかります。
今回は、生命保険での退職金積立がお得ではない理由を説明します。
併せてこちらの記事もお読みください。
目次
生命保険が節税に有効と言われる理由
生命保険がなぜ節税商品として、これほどまでにまかり通っているのか、ご説明します。
- 保険料を加味する前の利益は2,000/年
- 保険料の支払額は、1,000/年
- 保険の種類は、半額を損金に入れられるタイプ(いわゆる半損タイプ)
- 解約返戻率は95%
- 税率は20%
- 退職金は保険の解約返戻金と同額とする
下記の図の通り、保険料支払有の方が、100税金が安くなっています。
当然費用(保険料)が増えていますので、税金は安くなります。

実質返戻率の罠
生命保険の中には、掛け捨てタイプ(支払った保険料は戻ってこない)のものと、返戻金があるものがあります。
保険料の払いに対して、戻ってくるお金の比率を返戻率と言いますが、
返戻率が100%を超える商品も中にはあります。
保険に入る人の年齢が若いと、その分死亡リスクも低いので、保険料は安く、返戻金は高くなります。
一方高齢の方ですと、死亡リスクが高いので、保険料は高く、返戻金は低くなります。
ほとんどの保険商品は、解約返戻率が100%を割りますが、保険屋の中には、
上記で述べた節税効果を加味した実質返戻率は、100%を越えますよ。と謳う輩もいます。
ここで、実質返戻率とは何か下記の図で説明しましょう。
冒頭の「前提条件」の保険に10年加入し続けて、解約した場合。
支払保険料総額は、10,000。
解約返戻金は、9,500となります。
「単純な返戻率は、95%となりますが、節税効果が1,000ありますので、
節税分を加味すると、10,500となり、払った保険料より多くなりますよ!!」
というのが、保険屋の売り文句です。
「おお、お得だね!!」と飛びついてしまう経営者は多いはずです。
この実質返戻率には落とし穴があります。
それは、
解約返戻金に税金が掛かることが考慮されていないのです。
退職金の積み立てに生命保険が向かない理由
実質返戻金に税金が掛かることを考慮されていない事を指摘すると、保険屋はこう切り返します。
「解約した時に、退職金を支払えば、解約返戻金(利益)と退職金(損失)が相殺されて、税金掛かりませんよ」
この売り文句は、確かに税金は掛からないのですが、お得ではない理由を会計仕訳を交えながら、ご説明します。
保険料支払い時の仕訳(半損タイプ)

半損タイプは、支払った保険料(1,000)に対して、費用となるのは、半額の500となります。
残りの500は、前払保険料や保険積立金として資産計上されます。
保険解約時の仕訳

解約時は、今まで計上していた前払保険料を取り崩します。
解約返戻金との差額は、雑収入として収益として計上します。
一般的に、保険の解約時に多額の収益が上がりますので、それとぶつける形で、退職金を支払います。
解約返戻金への税金を考慮した数値例

これだけを見ると、最終的に、保険支払有の方が、税金が100安いので、一見お得に見えます。
税金だけに着目すると、お得に見えるのですが、トータルのキャッシュフロー(お金の流れ)を見ると、
生命保険を活用した積み立てが損であることがわかります。
下記の図をご覧ください。

こちらは、上記の図の出ていくお金と、入ってくるお金に着目した数値です。
出ていくお金は、「保険料総額」、「税金」、「退職金」です。
一方入ってくるお金は、「返戻金」です。
出ていくお金と入ってくるお金を差し引くと、保険支払有は、12,000。一方、保険支払無は、11,600。
保険料を支払った方が、出ていくお金が400多くなってしまいます。
節税にはなりますが、トータルのキャッシャアウトは、保険料を支払った方が多くなってしまいます。
多くの保険屋は、ここまでの出口戦略を説明していません。
実際に計算して頂ければ、分かりますが、純支出の差額が保険支払無を上回るためには、
返戻金が払込保険料総額を上回らなければなりません。
生命保険が退職金積立にまったく向いていないわけではない
さて、今まで、生命保険が節税にはなるが、お得ではない話をしてきました。
では、生命保険が退職金積立に全く役に立たないかというとそういうわけではありません。
それは、生命保険には保障があるということです。
生命保険とは、字のごとく、死んだときに、保険金が貰えます。
確かに、返戻率が100%以下の生命保険は、トータルのキャッシュアウトは、保険に加入した場合の方が多くなってしまいます。
しかし、保険に加入していれば、万が一経営者がなくなった時に、多額の死亡保険金が入ってきます。
つまり、今回の事例で言えば、純支出の差額の400で退職金の積み立てと経営者の万が一に備える事ができる。
ということになります。
そう考えると、生命保険もあながち悪いものではないなと考えることもできます。
まとめ
- 生命保険で節税はできるが、トータルの現金支出は増える(解約返戻率が100%の商品を除く)
- 生命保険は、万が一の備えにもなるので、保障の価値も考慮に入れる。