年末調整前後の源泉所得税の話
よく、年末調整の時にご質問を受けます。
「12月に入った中途入社の職員の年末調整で、前職の所得税の還付金をなぜウチが払わなければいけないんだ」と。
まぁ、気持ちはわからなくもないですが、源泉徴収の仕組みを理解していただければ納得いただけると思います。
本日は、源泉徴収の仕組みをご紹介したいと思います。
当記事は、経理担当者向けの記事です。
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目次
源泉徴収とは
所得税は、所得者自身が、その年の所得金額とこれに対する税額を計算し、これらを自主的に申告して納付する、いわゆる「申告納税制度」が建前とされていますが、これと併せて特定の所得については、その所得の支払の際に
支払者が所得税を徴収して納付する源泉徴収制度が採用されています。
この源泉徴収制度は、①給与や利子、配当、税理士報酬などの所得を支払う者が、②その所得を支払う際に所定の方法により所得税額を計算し、③支払金額からその所得税額を差し引いて国に納付するというものです。
また、復興特別所得税においても、平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に生じる所得のうち、所得税の源泉徴収の対象とされている所得については、所得税を徴収する際に、復興特別所得税を併せて徴収し、徴収
した所得税と併せて納付する源泉徴収制度が採用されています。
この源泉徴収制度により徴収された所得税及び復興特別所得税の額は、源泉分離課税とされる利子所得などを除き、例えば、報酬・料金等に対する源泉徴収税額については確定申告により、また、給与に対する源泉徴収税額に
ついては、通常は年末調整という手続を通じて、精算される仕組みになっています。
源泉徴収のあらまし(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/aramashi2017/index.htm
年末調整の還付の具体例
では、冒頭の事例を基に還付のからくりをご説明しましょう。
Aさんは、前職で500,000円の給与を貰っており、10,000円を源泉徴収され、490,000円の手取りを受け取っていました。(下図オレンジの部分)
12月に当社に転職し、12月は50,000円の給料を支給しました。(下図グリーンの部分)
50,000円の給料ですと、源泉徴収の必要はありません。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2017/01.htm
詳しくは、国税庁の平成30年分 源泉徴収税額表をご覧ください。

Aさんの一年間の所得は、550,000円ですので、所得税はゼロ円です。
そのため、Aさんにとって、既に源泉徴収されている10,000円は還付となります。
所得税の計算と給与所得控除については、下記をご覧ください。
所得税の計算
総合課税制度
総合課税制度とは、各種の所得金額を合計して所得税額を計算するというものです。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2220.htm
給与所得の計算
給与所得の金額は、次のように計算します。
収入金額(源泉徴収される前の金額) – 給与所得控除額 = 給与所得の金額
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1400.htm
給与所得控除
給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて算出しますが、この給与所得控除額は、給与等の収入金額に応じて、次のようになります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
会社は損はしていない
一見すると、当社は、Aさんに50,000円の給与と10,000円の年末調整の還付金を支払っているので、
損をしているように見えますが、年末調整で還付した分は、国から還付できます。
お金の流れを図にすると、下記のようになります。
この図の総支出を見てわかるように、結果的にAさんは、550,000円の支給を受け、
前職は、国とAさんに合わせて500,000円を支払い、当社は、50,000円の支払をしています。
つまり、当社は10,000円多く払っているわけではないのです。

年末調整の還付手続きをしないと返ってこない
注意点がございます。
年末調整の還付については、何もしなくても返ってくるわけではありません。
還付の手続きが必要です。
年末調整の過不足額の精算
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2675.htm
年末調整を行った月分の徴収税額だけでは還付しきれないときは、その後に納付する「給与、退職所得及び弁護士、司法書士、税理士等に支払われた報酬・料金に対する源泉徴収税額」から差し引き順次還付します。
通常は、12月の全社員の源泉徴収金額から年末調整の還付金を控除して、1月に納付します。
源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書
年末調整の還付金が多額な場合、源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書を作成し、還付を請求します。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_55.htm
過納額還付請求書記載例
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/pdf2/1648_22-2801.pdf
次の場合には、「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」を作成し、必要書類を添付して給与の支払者の所轄税務署長に提出し、税務署から還付を受けます。
イ 解散、廃業などにより給与の支払者でなくなったため、還付することができなくなった場合
ロ 徴収して納付する税額がなくなったため、過納額の還付ができなくなった場合
ハ 納付する源泉徴収税額に比べて過納額が多額であるため、還付することとなった日の翌月から2か月を経過しても還付しきれないと見込まれる場合
年末調整の還付が2か月を超える場合は?
原則として、源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書を作成し、還付を請求しますが、
4か月分くらいなら毎月の源泉所得税の納付から、差し引いて納付します。
源泉所得税の納付がゼロの場合は?
そもそも論として、年末調整の還付が多いので、納付がゼロになった場合はどうすればよいのか?
ゼロ円だから何もしなくてよいのか?というと、そうではありません。
納付をしないと、税務署から問い合わせが来ます。
また、金融機関は、お金が動かないゼロ円の納付書は受け付けてくれません。
年末調整で源泉所得税の納付金額がマイナスだったときの還付の仕方について対処方法をお答えします。
- 税務署に直接納付書を送る
税務署に納付金額がゼロ円の納付書を送ります。返信用封筒を入れておくと、税務署の受領印が押された控えが返ってきます。 - 納付金額を1円で金融機関で納める
還付金額が10,000円の場合。1円を納付して、摘要欄に次月繰越額9,999円と書いて納付します。
まとめ
源泉所得税は、あくまでも個人の所得税を会社が立て替えて払っているだけですので、
会社にとって損得は発生しません。
ただし、還付の手続きが必要となりますので、その点だけご注意ください。